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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)2163号 判決 2000年7月21日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は原告に対し、金6,548万2,392円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告から購入した外国投資信託「アイルランド籍・ドル建契約型外国投資信託(私募)コリアCBボンド・ファンドB」(その概要は別紙1記載のとおり。以下「本件ファンド」という。)に関して、被告の担当者に勧誘等の取引行為における注意義務違反があったとして、原告が被告に対して民法709条又は715条1項の不法行為に基づき損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、昭和34年6月22日に設立された貨物自動車運送事業法による一般貨物自動車運送事業を業とする資本金10億8,004万7,750円の株式会社である。

2  被告は昭和23年3月4日に設立され、有価証券の売買、同売買等の媒介、取次ぎ、有価証券の募集及び売出し、私募等の取扱い等を業とする株式会社である。

3  被告名古屋支店所属の従業員訴外乙山太郎(以下「訴外乙山」という。)及び同支店企業部長の訴外丙川一夫(以下「訴外丙川」という。)は、平成8年3月中旬ころから同年4月3日ころにかけて、原告の財務担当専務取締役訴外丁野春男(以下「訴外丁野」という。)に対し、原告が調達した設備資金の運用として本件ファンドの購入を勧誘した。本件ファンドの管理会社はブラウン・ブラザーズ・ハリマン・ファンド・アドミニストレーション・サービシズ(アイルランド)リミテッド(以下「BBH(F)」という。)、保管銀行はブラウン・ブラザーズ・ハリマン・トラスティー・サービシズ(アイルランド)リミテッド(以下「BBH(T)」という。)、投資顧問会社はサンキョン・インベストメント・マネジメント・リミテッド(以下「鮮京」という。)である。また、BBH(T)は、保管業務につきブラウン・ブラザーズ・ハリマン・アンド・カンパニー(以下「BBH」という。)をグローバル副保管会社に指名し、BBHは韓国外換銀行を韓国における副保管銀行に指名した。被告は、平成8年1月7日ころBBH(F)との間で本件ファンドの日本国内の販売会社として指定され、本件ファンドの販売と買戻業務を行っていた。

4  原告は、平成8年4月8日、取締役会を開催し、訴外丁野から説明を聞いた上で本件ファンドを1万5000口購入することを決定し、同月10日に被告との間で本件ファンド1万5000口の購入契約を締結して同月15日に右の購入代金として1億6,342万9,288円を被告に支払った。

5  同月11日、原告は被告に対し、予約期日を平成10年1月14日、予約為替レート99.44円で149万4,900ドル(円貨金額1億4,865万2,356円)の外国為替予約をして、本件ファンドの円・ドル間の為替リスク回避のためのヘッジを行った。

6  本件ファンドの基準額は、1口当たり平成9年3月27日当時102.55ドル、同月30日当時104.46ドルであった。

7  平成9年10月、韓国に経済危機が発生し、同国の外国為替市場は大きく混乱して韓国企業の社債に高率のデフォルト(債務不履行)が発生した。本件ファンドのウォン・ドル間の為替リスク回避のためのヘッジはこの時行われていなかった。

8  被告は、平成9年12月29日、原告に対して、本件ファンドの評価額が52.29ドルとなったこと、その理由は2銘柄のデフォルトと、ウォン・ドル間の為替リスク回避のためのヘッジがなかったためであることを通知した。

9  被告は、平成10年1月20日、原告に対し、本件ファンドの償還金として6,519万8,311円を原告に支払った(平成10年1月12日の償還日現在の本件ファンドの評価1口33.24324ドルにより円貨計算したもの)。また、被告は、同日、右の償還処理と同時に前記外国為替予約の決済金として4,695万4,809円の支払いを原告から受けた。

10  被告は平成10年3月30日、原告に対し、本件ファンドの追加償還金名下に370万0,141円を支払った。

二  (争点)

1  被告の説明義務違反及び誤認表示の存否

(原告)

(一) 本件ファンドは、ウォン・ドルの為替リスクに関して償還期限までの確定的なヘッジが約束された商品ではなく、運用会社の裁量によりヘッジができるという商品に過ぎなかった。そこで、被告は、本件ファンド購入の勧誘に際して、ウォン・ドル間の為替リスクヘッジは運用会社の裁量に委ねられており、ウォン・ドルの為替リスクを被る危険性のある商品であることを説明する義務があった。被告の説明義務の内容は、投資家にとって重要な事項(かつ容易に知り得ない事項)につき、投資家に十分な投資判断を全うさせるために存するのであるから、為替リスクについては、<1>ヘッジがあるとするならば、確実に償還期限まであるのかどうか。<2>ヘッジは全くないのか。<3>ヘッジがあるとしても運用会社の裁量による不確実なものかを明らかにしなくては説明義務を尽くしたことにはならない。

(二) 更に、被告担当者(訴外乙山)は、為替リスクがないかのような記載をした甲第5号証を用いて、ドル・円の為替リスクについてはヘッジがないから原告自らが外貨為替予約をしたほうがよい、ただしヘッジコストとして4.25パーセントかかると説明し、訴外丁野がこの外貨為替予約をすることとした際、ドル・ウォン間のヘッジはどうなっているのかと聞くと、「大丈夫、円・ドル以外のヘッジのリスクは考える必要はない。」と述べた。

(三) そこで、訴外丁野は、本件ファンドがフルヘッジ商品(償還日までウォン・ドル間の為替リスクを回避するためのヘッジがなされている商品)であると信じて購入を決定し、その結果損害を被ったものであり、被告には損害賠償責任がある。

(被告)

(一) 原告は昭和34年6月に設立されて一般貨物自動車運送事業を業とする資本金10億8,004万円余の株式会社であり、財務担当専務取締役がおり、平成7年4月には株式店頭公開を果たし、同年6月に被告から長期国債ファンド投資信託の買付を行い、平成8年3月にはスイス・フラン建転換社債発行を行っているのであり、本件ファンドに対する投資決定は取締役会の審議を経てなされている。したがって、原告は投資信託が委託会社に資金運用を委ねて投資者はその果実を取得する商品であること及び外貨建転換社債発行に際して為替リスクヘッジの手段方法には各種のものがあることを知悉していた。そして、被告担当者が原告財務担当取締役(訴外丁野)に対して本件ファンドを勧誘する際、本件ファンドが韓国上場企業の発行するウォン建無担保転換社債を投資対象とする投資信託であること、本件ファンドでは投資信託の運用内でウォン・ドルの為替リスクヘッジが行われていること及び円・ドルの為替リスクヘッジのためには本件ファンド買付のほかに別途外国為替予約を行う必要があることを説明したことは争いがなく又は証拠上明らかであるところ、以上からすれば、本件においてそもそも被告に説明義務が課されるかについても疑義が生ずるほか、ウォン・ドルの為替リスクヘッジに関して被告担当者らは本件ファンドでは投資信託の運用の範囲内でウォン・ドルの為替リスクヘッジが行われていることを説明している事実からすれば説明義務違反は認められない。また、本件ファンドの販売会社である被告は、委託会社の行う将来の運用のすべてを保証することはできず、むしろそのような保証を行うことは投資信託の販売における断定的判断の提供ないし利回り保証に該当するものといえる。したがって、本件ファンドの投資勧誘におけるウォン・ドルの為替リスクヘッジに関しては、勧誘時点において投資信託の運用内でウォン・ドルの為替リスクヘッジが行われていることを説明すれば十分であり、それ以上の説明は不必要である。

(二) 被告担当者(訴外乙山)が、本件ファンドにはドル・円の為替リスクについてはヘッジがないから原告自らが外貨為替予約をしたほうがよいと勧め、そのヘッジコストとして概算4.25パーセントかかると説明したこと、その対比で本件ファンドにはウォン・ドルの為替リスクヘッジがなされていて、そのヘッジコストが概算0.4パーセントであると説明したことを争うものではない。しかし、甲第5号証には償還期限までウォン・ドルの為替リスクヘッジがなされるとは記載されていない。被告担当者は原告に対して本件ファンドでは運用内でウォン・ドルの為替リスクヘッジが行われていることを説明しており、スイス・フラン建転換社債の発行まで行っている原告は為替リスクヘッジが行われればそのコストがかかることを当然知っており、甲第5号証の「(ご参考)当ファンドの想定利回り」と題して想定利回りを計算するのに、ウォン・ドルの為替リスクヘッジコストが加味されることは所与の前提である。したがって、被告が本件ファンドの想定利回りを原告の参考に供し、その中でウォン・ドルの為替リスクヘッジコストを表示していたとしても、それが直ちに誤認表示などに当たらないのは明らかである。そのうえ、本件ファンドの運用内でウォン・ドルの為替リスクヘッジが行われていることの説明がなされているのであるから、ヘッジコストの表示が償還期限までの為替リスクヘッジを保証するものではないことは明らかと言わざるを得ない。

2  被告の監視義務違反の存否

(原告)

(一) 本件ファンドは確実な償還期までのウォン・ドルヘッジがされた商品ではなかった。しかし韓国証券市場での運用には為替リスクがあり、リスクヘッジがされていないと商品の魅力を損なうことから、被告はあたかも本件ファンドが償還期限まで確実な為替リスクヘッジがなされている商品であるかのように仮装して売り出した。

(二) 被告が本来フル・ヘッジの商品ではないにもかかわらずフル・ヘッジの商品であるかのような表示(誤認表示)をしたからには、被告には、信義則上、BBH(F)(あるいは鮮京)に対し、フル・ヘッジと同様の効果をもたらすように本件ファンドを運用させる監視義務があった。

(三) したがって、右の義務を怠った被告は原告の損害を賠償すべき義務がある。

(被告)

被告に原告主張の誤認表示がない以上、原告の監視義務違反の主張は前提を欠いて失当である。

3  原告の損害

(原告)

別紙2に記載のとおり

第三  争点に対する判断

一  争点1(被告の説明義務違反の存否)について

1  <証拠略>及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 訴外丁野は、平成元年に原告の専務取締役事業本部長、平成2年には専務取締役管理本部長、平成7年10月以降は経理、財務ほか担当の専務取締役となり、本件ファンドの取引当時もこの役職にあった。

(二) 訴外乙山は、平成2年12月に飛び込みで原告に営業に訪れてから、原告に株式公開の際には被告が幹事証券会社のひとつとなれるように勧誘を始め、訴外丙川と共に訴外丁野の下を訪れるようになった。

(三) 訴外丁野は、原告が株式店頭公開を目指していたことから、証券会社との顔つなぎの必要を考え、平成3年5月7日から被告との間で個人で取引を開始した。訴外丁野個人の取引は、当初、新規上場会社の株式入札を複数行ったのが主であった。これは、株式店頭公開後の株価の動きや、株式公開を行った会社の公開後の状況などの勉強の趣旨と説明していた。その後、訴外乙山の勧めで、訴外丁野は、株式の取引のほか、平成3年12月ころからは国内投資信託(長期国債ファンド)、平成4年1月からは外国投資信託取引も開始した。

(四) 訴外丁野の取引の方法は、被告担当者に対して予め商品の説明を詳しく求め、商品内容に納得して初めて実際に購入するというものだった。しかし、外国投資信託は為替リスクなどによる損失が続き、訴外丁野は訴外乙山が無断で訴外丁野の利益に反する取引を行ったと疑い、同年4月末にいったん訴外丁野個人と被告との間の取引を清算した。しかし、被告は、平成6年12月になって原告の幹事証券会社のひとつに正式に決定したことから、このころ、原告が被告との間で口座を開設した。その内容は、当初、国内投資信託のうちマネ・マネージメント・ファンド3,000万円、その後長期国債ファンド1,000万円などであった。

(五) 平成7年4月11日に原告が株式の店頭公開をした後、訴外乙山は訴外丁野に対して原告の資金調達についての提案を出した。しかし、被告の提案は国内での転換社債発行であったのに対して、同時期に野村證券株式会社が提案した転換社債はスイスフラン建として諸費用を低く抑えるというもので、原告はこれらのうちスイスフラン建転換社債を発行することとしたが、これまでの経緯から平成8年3月28日のスイスフラン建転換社債発行の際には、被告関連会社も幹事証券会社として加わった。

(六) 訴外丁野は、これらの資産運用や資金調達の担当専務取締役として、投資の利回りやリスクの有無、転換社債を発行した場合の為替リスクの存在及びこれを回避する方法などを訴外乙山などの担当者に細かく質問するなどして種々検討していた。

(七) 訴外乙山及び訴外丙川は、平成8年3月半ばころから、原告が転換社債発行により得る資金の運用方法として、訴外丁野に本件ファンドの購入を勧誘していた。

(八) 本件ファンドはBBH(F)が発行する有価証券(外国投資信託証券)で、正式名称をコリア・ボンド・トラスト・コリア・シー・ビー・ボンド・ファンド(A、B)と称し、平成8年1月18日(Aファンド)ないしは同年2月22日(Bファンド)に運用を開始したドル建・契約型外国投資信託である。平成10年1月12日償還を予定し、追加設定が可能である。被告は日本において本件ファンドの販売業務を行う。

(九) 訴外乙山は、本件ファンドの勧誘のために訴外丁野を数回訪れ、甲第5号証のパンフレットを使って本件ファンドについて説明した。同書証は平成8年3月19日時点で作成された本件ファンドの概要を示すものであり、設定に当たっての運用目標及び投資方針について「主として高い金利を維持している韓国のウォン建転換社債(上場中小企業無担保転換社債)に投資することにより、安定した収益の確保と信託財産の着実な成長を図る。また、来年(平成9年)以降の債券市場の開放とともに一般債券への投資も検討する。具体的には(1)価格が低く満期償還金が高い(プット権利行使による)CB(転換社債)を組み入れ、利回りの向上を図る。(2)投資期間中にいずれかの銘柄が急騰し当該銘柄のバリティーがプット価格を上回った場合には株式へ転換し売却する。(3)運用期間中の組入れ比率は95パーセント以上とする。」と記載がある。この運用目標及び投資方針にはウォン・ドルの為替リスクヘッジについては何ら言及されていない。続けて、管理会社、投資顧問会社、保管銀行、副保管銀行及び販売会社(被告)の別が示されている。「当ファンドの想定利回り」の項では、「当ファンドは、韓国の上場転換社債に投資をすることにより、債券としての利回りと株式値上がりによるキャピタルゲインの獲得という2つのメリットを享受することを目的としています。」との説明の下に「ご参考」として本件ファンドの想定利回りの試算が記載されている。これによると、ウォン建転換社債レートとして11パーセントの利回りを想定し、ここから設立・償還費用、受託・管理会社報酬等の予想経費を控除してヘッジ前のネット利回り想定を9.2パーセントとし、ここからウォン・ドルヘッジコスト0.4パーセントを控除してドルベース手取り想定を8.8パーセントとしている。これから買付手数料、円ドルヘッジコストを控除して円ベースの手取りを4パーセント程度と想定している。

この表の記載は、一見して本件ファンドの予想利回りのみを表示しているに過ぎないことが明らかであり、本件ファンドの運用の方針を示したものではない。

(一〇) 訴外乙山は、この表を用いて想定利回りについて説明した際、ウォン・ドルヘッジコストで0.4パーセント程度手数料が掛かること、ウォン・ドルの為替リスクヘッジは鮮京が行うこと、しかし円・ドルの為替リスクは原告自身が外国為替予約をする必要があること、そのコストとして4.25パーセント程度が必要であることを説明した。しかし、ウォン・ドルの為替リスクヘッジが償還まで続くとは述べていない(証人乙山23ないし25頁、30頁、証人丁野100頁)。

(一一) 証人丁野の証言中には、右の訴外乙山の説明に続いて訴外丁野が訴外乙山に対してウォン・ドルの為替リスクについて尋ねたところ、訴外乙山がリスクは考える必要がないとの趣旨を答えたとの部分がある。しかし訴外丁野は当初陳述書(甲27)で「右の説明を聞いた際に乙山氏らに、ドル・ウォンの為替リスクヘッジはどうなっているのかと尋ねました。すると乙山氏らは甲5の3頁を示して…『大丈夫、円・ドル以外の為替のリスクは考える必要はない』と述べました。」と委託者である原告自身がウォン・ドルのヘッジを行うか否かの質問をしたことに対して訴外乙山がリスク自体を否定したともとれる記述をしているところ(甲27・7、8頁)、証人尋問の際には、「ウォン・ドルの為替リスクについては大丈夫だろうねと」(確認をしたところ、)、「大丈夫、ドル・円については為替をヘッジする必要はあるけれども、後については考える必要はない。」と、リスクの存否についての質問に対して訴外乙山がヘッジの不要を答えた趣旨に述べ(証人丁野42頁)、あるいは、ヘッジの要否ではなく、為替リスクの存否についての質問と答えがあったとも述べているのであって(同101、119、122頁)、この場当たり的ともとれる供述内容からすると、少なくとも訴外乙山がこの質疑応答の際にウォン・ドルの為替リスクがないと述べたとの前記甲第27号証及び証人丁野の証言部分は信用することができない。

(一二) 訴外乙山は、本件ファンドの有価証券通知書と英文の目論見書(プロスペクタス)を、原告が購入を決める直前又は直後ころ、訴外丁野に交付しているが、内容について説明は求められなかった。

(一三) 本件ファンドの運用に当たり、鮮京は、当初、ウォン・ドルのヘッジを行っていたが、平成9年2月ころからウォン・ドルのヘッジを行わなくなった。その理由につき、同社は、平成9年2月ころにヘッジコストが10パーセントとなった、長期為替予約する市場がなかったなどと説明している。しかし、鮮京はこのことを運用報告書に記載しなかったことから、被告も平成9年12月ころまでこのことを知らなかった。

2  右に認定の事実に照らすと、甲第5号証にウォン・ドルの為替リスクヘッジが償還期限までなされていると誤認させるような記載がないことは明らかである。また、訴外乙山は、本件ファンドの概要を訴外丁野に説明した際に、ウォン・ドルヘッジが償還時まで行われるとの説明はしておらず、ウォン・ドルの為替リスクが生じないとの説明をしたとも認められない。以上に照らすと、被告あるいは被告の担当者である訴外乙山が、原告担当者である訴外丁野、ひいては原告に本件ファンドのウォン・ドルの為替リスク存在の可能性について積極的に誤認を生じさせる表示をしたとはいえないことが明らかである。

3  投資勧誘において取引的不法行為を問う前提としての証券会社の顧客に対する説明義務は、事実として業者と一般顧客との間に知識・経験・能力等の面での歴然とした格差があり、これを前提に顧客は業者の助言・勧誘を信頼しているという状況が通常予想されることから、顧客の自主的かつ自由な判断による取引を確保するために課せられるものである。したがって、その内容は、当該顧客が個人か否か、営利活動を日常的に行う者であるか等の経歴、投資取引の知識経験、能力、財産等に応じて加重軽減されるものである。そして、投資信託は、基本的に、その運営目標及び投資方針の範囲内で運営会社に資金運用を委ねるものであるから、運営目標及び投資方針に何らの記述がなく、他に特約や規定等がなければ、これ以外の事項については運営会社の判断に委ねられているものである。そこで、これを本件に照らして考えるに、前掲の争いのない事実及び前記認定によれば、原告は、設立後40年を超え株式を店頭公開し、資本金が10億円を超える規模の株式会社であること、財務担当の専務取締役を置いていること、本件ファンド購入以前に資金調達の手段としてスイスフラン建転換社債を発行した際には被告以外の証券会社とも接触して複数の情報を得て比較検討し決定していること、右の転換社債発行の際には為替リスクヘッジの手段について原告が種々検討したこと、原告の財務担当重役である訴外丁野自身、国内投資信託のみならず外国投資信託の経験もあることに照らすと、本件ファンドがドル建の投資信託であって運用対象がウォン建の転換社債であることを示せば当然に原告にはウォン・ドルの為替リスクの存在を知り得ることがらであり、また、運営目標及び投資方針その他特約にウォン・ドルの為替リスクヘッジについての定めのない以上、このリスクヘッジも含めて運用会社の裁量に委ねられていることも原告にとって知り得ることがらであると認められるから、本件ファンドの勧誘に当たって、被告が原告にこれらを明示的に説明する義務があるとは認めることはできない。

二  争点2(被告の監視義務違反)について

前記認定によれば、被告には原告を誤認させる表示があったとは認められないから、誤認表示を前提とした被告の監視義務違反の主張は、その前提を欠き失当である。

三  結論

したがって、その余について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。

(別紙1) 本件ファンドの商品概要

形態 アイルランド籍、ドル建・契約型外国投信

募集形態 少人数私募

信託期間 Aファンド:2年、Bファンド:11ヶ月(両ファンドとも98年1月12日償還)

運用目標 および 投資方針 主として高い金利を維持している韓国のウォン建転換社債(上場中小企業無担保転換社債)に投資することにより、安定した収益の確保と信託財産の着実な成長を図る。また来年以降の債券市場の解放とともに一般債券への投資も検討する。 具体的には、1)価格が低く満期償還金が高い(プット権利行使による)CBを組み入れ、利回りの向上を図る。 2)投資期間中(96年1月-97年12月)に何れかの銘柄が急騰し当該銘柄のバリティーがプット価格を上回った場合には株式へ転換し売却する。 3)運用期間中の組入れ比率は95%以上とする。

追加設定限度額 Aファンド:311万ドル(約3.3億円) Bファンド:620万ドル(約6.5億円)

運用開始日 Aファンド:平成8年1月18日 Bファンド:平成8年2月22日

利益分配 信託期間中1回(平成9年3月) 分配額は未定

発行価格 1口=100ドル、4000口以上1000口単位(2/22現在A100.41ドルB100.00ドル)

手数料(外枠) 4000口以上10000口未満…1.5% 10000口以上…1.0%

追加設定・解約 追加設定/原則毎週月曜日申込み。:受渡し/翌日から起算して4営業日目 解約/原則各月20日までの申込み。(解約時は1%の信託財産留保額を徴収) 現地約定日/申込日翌日から起算して2営業日目(国内は翌日) 現地受渡日/現地約定日翌日から起算して5営業日目 *尚、為替ヘッジを行い途中換金をする場合には、ヘッジの決済に伴う差損益が生じることがあります。

基準価額の算出 原則毎週月曜日(現地)および解約があった場合は解約日、月末(日本時間では翌日判明)

その他 目論見書・決算報告書は英文。投資顧問会社の月次レポート(日本語)を作成予定。

関係会社 管理会社:ブラウン・ブラザーズ・ハリマン・ファンド・アドミニストレーション・サービシーズ(アイルランド)リミテッド(アイルランド) 投資顧問会社:鮮京投資顧問(韓国) 保管銀行:ブラウン・ブラザーズ・ハリマン・トラスティー・サービシーズ(アイルランド)リミテッド(アイルランド) 副保管銀行:韓国外換銀行(韓国) 販売会社:被告(日本)

(別紙2)損害計算書

ウォン/ドルの為替ヘッジがされていなかった事による当社の損害

1.98'年1月12日現在のウォンベースの基準価格と当社持分純資産額の確認

○ドル表示での1ユニット当りの基準価格 33.243243$計算書による

○上記ドル表示のウォン・ドル換算レイト $=1,576W 国際証券で確認

○当社の保有ユニット数 15,000

○ 基準価格(W) 52,391

◎ 持分純資産(W) 785,870,265

2.本来ヘッジすべきウォン・ドル為替レイト(96'4.10日)

当時のウォン・ドル為替レイトを現段階で確認できる資料が入手出来ない。

よって、ドル・エンおよびウォン・エンレイトにより試算する。

96'4.10 ドル・エン 108.30 公示中値 東京三菱銀行調べ

ウォン・エン 0.1397 公示中値 東京三菱銀行調べ

想定ドル・ウォン為替レイ 775(108.3÷0.1397)

資料96'4月末レイト 779

◎ 資料のレイトを採用する 779

3.ヘッジコストの試算

○ヘッジコストの試算は非常に困難である。

ヘッジコストは、その手段方法によって相当の相違が有ると考えられる。

1年10か月間のウォン/ドルヘッジの手段とコストを当社では算定出来ない。

○よって想定利回り表(以降資料(1)という)の数値を引用する。

資料(1)のウォン・ドルヘッジコスト0.4%妥当性の検証

(円/ドルのヘッジコスト)……実数値が確定している。

当社での試算

購入時レート 108.21円

為替予約のレート 99.44円

1年10か月コスト 8.105%

年換算 試算上のコスト 4.421%

資料(1)のヘッジコスト 4.250%

資料(1)の数値はそれなりに納得できる。

◎商品説明資料(1)の数値である運用額の年0.4%と看做す事が妥当と考える。

4.ヘッジの実績

○ウォン・ドルヘッジの実績に付いては、一部国際証券98'1.12日の文書の中でのBは半年間ヘッジされていた、を当該計算上採用する。

96'4月~96'10月以降6か月間はヘッジ済みとして計算する。

96'11~以降16か月間は、ヘッジなしとして計算する。

5.ヘッジすべき総額の試算

基準価格($)×ユニット数×利回り×期間×ドル・ウォンレイト=総額(ウォン)

○100×15,000×(1+(0.092×2÷24×22))×779=1,365,587,000 ウォン

6.ヘッジコストの試算(ウォンベース)

ヘッジコスト(年) 1,365,587,000×0.004= 5,462,348 ウォン

○ヘッジコスト(16月) 5,462,348÷12×16= 7,283,131 ウォン

当社が受領すべき金額

○ウォンでの総額 785,870,265 ウォンA

ヘッジコスト(ウォン・ドル) 7,283,131 ウォンB

差引 A-B 778,587,134 ウォンC

○ドル換算 C÷779 999,470.00 ドル D

○円貨換算 D×130.75 130,680,703 円 E

○受領済み額 65,198,311 円 F

◎差引請求額 E-F 65,482,392 円

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